主な活動

歌集「サバンナを恋う」を上梓

2017年3月10日砂子屋書房より歌集「サバンナを恋う」を上梓。
作歌を初めてからの作品500首あまりを収録。
以下、歌集のあとがきより

上野駅構内の書店で子規の「歌詠みに与える書」をたまたま手にしたのがきっかけで、短歌に興味を持つようになった。一九九〇年代末のことである。二〇〇一年短歌人会に入会、五年ほど経ったところで、多忙を理由に八年間ほど活動を中断、二〇一四年から再開、現在に至っている。

短歌では自分の記憶に残したいこと、他の人と共有したいことを詠む。従って、その時点時点での自分およびその周辺のことが中心になるが、短歌の世界に遅れてきた者にとっては、過去の記憶を取りだしピン留めすることも重要な課題だと思っている。また、短歌は云ってみれば写真ではなく絵画のようなもので、時には、心象風景のようなものを詠んで見たくなることもある。ただし、この時も、現実となんらかのつながりのあるものでなくては、少なくともいまの自分にとっては面白くない。また、何を表現したいのかが明確になるようにしている。これは、私の短歌に対する考え方である。作品を並べてみると、海外のものが多い。ほとんどは仕事で出張した時のものである。

歌集のタイトルは(「高原の町に晩夏の陽はあふれサバンナを恋うガラスのきりん」より)「サバンナを恋う」とした。表紙の写真はガボンで撮影したものである。

歌集の栞文を有馬朗人、梅内美華子および小池光の三氏に書いて頂いた。

その中では以下のような作品が取り上げられている。

歌集「サバンナを恋う」
歌集「サバンナを恋う」

異常なし(ニヒツ・ノイエス)」蝶の死骸を巣に運ぶ蟻の一群春の前線
蜜蜂をちぎりひそかに蜜なめし少年おびえる空のむらさき
音欠けるオルガン弾きつつ少女問う月の砂漠の駱駝の行方
反論の準備は出来た「タムタムタム」ここはマサイのリズムでゆこう
少年は痩せた二頭の牛つれて川原に下りくる草笛鳴らし
月青く四囲の奇山を照らすとき子らやすらかに村に寝るべし
経典を携え来るラマ僧もかくや氷河の村を見下ろす
「天地とはかくなるものぞ」咆哮し大河を落とすイグアスの滝
熱帯雨林保全会議を終える時ひときわ高き大蝉の声
「噛まれたら噛んだコブラも病院へ」注意事項の中程にあり
「無」があるとつくづく思うパタゴニア大地に風がただ吹き渡る

ガボンの熱帯雨林の保全と利用

森林地帯の部落の長老達
森林地帯の部落の長老達

2014年4月から5月にかけて、中央アフリカ西海岸にあるガボンを訪問した。京都大学(研究代表者は現京都大学学長 山極教授)が中心となって「野生生物と人間の共生を通じた熱帯林の生物多様性保全」と題する国際共同研究が終了するにあたり、その成果と今後のことを視察、議論するためである。なお、ガボンは、2年前に続いて2度目の訪問である。

ガボンは、国土の80%を森林が占め、世界有数の生物多様性に恵まれた地域である。共同研究の対象地域としているムカラバ国立公園地域は草原と熱帯雨林とが混在し、ゴリラをはじめとする類人猿、象、ヒョウ、ダイカーその他多種類の哺乳類も生息した特徴のある生態系を有している。また、当該国立公園の周辺部は、人口密度は低いが、森林伐採事業などが行われた時に集まった人たちを含め種々の民族が生活している。

熱帯雨林研究のアシスタント
熱帯雨林研究のアシスタント

共同研究は、この地域の生態系、生物多様性のメカニズムの解明と保全を目的としている。保全を持続するためには政府や地域住民が経済的インセンティブを得られるようにすることが重要である。その手段としては、遺伝子資源の薬品や食料への利用、木材や食用植物・動物の採取などもあるが、ここではゴリラを中心とする地域住民参加型のエコ・ツーリズムの構築を考え、ゴリラの人付けの研究も進めてきた。

国立公園には丸木舟で
国立公園には丸木舟で

エコ・ツーリズムの構築といっても、経済的に成立すると共に、本来の目的である生態系・生物多様性の保全のほか、人畜共通感染症の防止、農作物の獣害の防止、地域住民の文化の保全など、研究者と政府、住民が一緒に考えねばならない課題が多々あり、また、その構築のプロセス自体も大きな研究テーマであった。

現地は、交通の便が悪く、現地は電気や水道もなく、事故やマラリアや腸チフスなどの感染症にかかることもまれではない。研究者らはこのような悪条件に耐え、生物学、環境生態学、霊長類額、人文科学の分野で世界に誇れる研究を行い、科学に裏付けられエコ・ツーリズムの見通しが立つところまでこぎつけた。研究者に敬意を表したい。

なお、これらの成果は、学界で高く評価されているほか、他の地域にも広く普及できる。

海に沈むツバル

星砂などが漂着してできた砂浜
星砂などが漂着してできた砂浜

南太平洋の島嶼国ツバルは、地球温暖化による海面上昇によって海に沈む恐れがある国として知られる。

2014年3月そのツバルを訪問した。4年前に続いての2度目の訪問である。08年度に「地球規模課題対応国際科学技術協力事業」で採択したプロジェクトのひとつである、「海面上昇に対する生態工学的維持」(研究代表者 東京大学 茅根創教授)研究が終了時を迎え、現地の状況を視察するためである。

有孔虫(星砂、赤色)の生息地
有孔虫(星砂、赤色)の生息地

ツバルの島々は、珊瑚礁(環礁)に珊瑚礁のかけら(砂礫)や有孔虫(星砂)が作り出した砂が打ち上げられて出来たものであり、椰子やバナナの木が生えている。首都フナフチがあるフォンガファレ島は、標高が最高3、.4メートル、最大幅が5、600メートルほどで、島内のどこからでも外洋か内海、あるいはその両方を見ることが出来る。1万人弱の国民の約半分がこの島に住む。島にあるバナナや周囲の海でとれる魚、わずかに飼育している豚、鶏、小さな農園で栽培している野菜以外、食料その他の生活物資はほとんどすべてが輸入で、出稼ぎ(船員も多いと聞く)、外国からの援助、切手の販売などの収入でまかなっているよし。

島内にできた塩水の池
島内にできた塩水の池

IPCCの予測や現地での観測によれば、平均年4、5mm、海面が上昇しているとのことである。また、現在は、島存続の基盤をなす珊瑚や有孔虫が、排水による汚染などで衰退しているところが多く、島の基盤が脆弱になっている。

茅根教授らは、浅瀬に住む有孔虫は、条件が整えば毎年2ミリ厚以上にも匹敵する増殖・生育が期待でき、高波で打ち上げられる珊瑚礁の砕けた礫とこの有孔虫によって得られる砂を使って砂浜を造ったり、陸地を高めたりし、島を維持することが出来るのではないかと考え、研究を進めてきた。今回の研究によって、その可能性が確認され、そのための技術、方策が開発、提案された。ツバルを救うだけではなく、課題解決先進国として、島の再生、維持を実現し、同じような状況にある国、地域の手本となることを期待したい。

塩水の池に大きな虹立ちてツバルは海に沈みゆく国

大洪水に襲われたタイ

水害頻発地域の住居
水害頻発地域の住居

2012年2月、東京大学が中心となり国際共同研究「水文気象統合観測システム開発」を行っているタイに出張した。

2011年秋、タイは大洪水に襲われ、タイにある日本企業の工場も浸水のため設備や製品が損傷し、タイのみではなく日本、さらには世界の経済に大きな影響を与えたことは記憶に新しいところである。

現在、タイでは、各地の水位をモニターするシステムを灌漑局が有しているが、今後どう変化するかの判断は担当者に委ねられているため、的確な警報の発信や対策が困難であった。このプロジェクトの主なねらいは、数時間から数週間先の水位の変化を正確に予測出来るようにすることである。

広大なサトウキビ畑
広大なサトウキビ畑

今回の出張では、洪水が発生したチャオプラヤ川流域や関連研究機関、政府機関を訪問し、状況を視察すると共に関係者と今後の方針を議論した。

農業にとって、洪水はそのときの作物を失う一方で、それに続く乾季以降の作物の大幅な増収をもたらす効果がある。洪水の頻発地帯にも農民が住んでおり、はしごで上り下りする住居も多い。先の洪水が大きな問題になったのは、数十年に一度という大きな規模のものであったことのほかに、洪水で被害を受けやすい工場群が出来ており、タイに大きな経済損失を招いたことと、海外の企業がタイへの進出をためらう恐れが出てきたことによる。気候・気象の変化とともに社会の動向によっても課題の重要性が変わってくる。

カリマンタン島(ボルネオ)の泥炭地からの二酸化炭素の放出

農地にするため泥炭地の水が抜かれる(違法ではあるが)
農地にするため泥炭地の水が抜かれる(違法ではあるが)

2011年11月、インドネシアのカリマンタン島の泥炭地を訪問した。

インドネシアは、世界全体の泥炭の約60%を有しており、カリマンタン島はとくにその量が多いことで知られている。その泥炭地が開発対象になり、泥炭を覆っていた樹林が伐採され、水が抜かれている。とくにメガライス・プロジェクトとよばれる大規模な米作計画が数十年前にあり、その計画が失敗に終わった後、広大な地域がそのまま放置されている。そのため、泥炭地で火災の発生や冷たい燃焼と呼ばれる泥炭の分解が大幅に増え、それにより放出される二酸化炭素の量は、日本全体の二酸化炭素の放出量に匹敵すると推定されている。

泥炭地の森林が伐採され敷設されたトロッコの線路
泥炭地の森林が伐採され敷設されたトロッコの線路

2008年度「地球規模課題対応国際科学技術協力事業」で採択した日(代表研究機関は北海道大学)―インドネシア国際共同研究「インドネシアの泥炭・森林における炭素管理」プロジェクトは、水の制御による火災発生の防止、衛星観測などによる火災の早期発見、延焼予測、消火システムの構築などにより、この二酸化炭素放出量を1/3~1/5に削減することを目標としており、日本国内の二酸化炭素放出量削減対策に比べそのスケールは桁違いに大きい。

このプロジェクトに対するインドネシア政府の期待は大きく、世界的に注目されるようになってきた。まさに日本の科学技術によるインドネシアおよび世界への貢献と云うことができよう。

水抜かれ緑皮はがされただれゆくカリマンタンの泥炭の原

日本国際賞

日本が創設したノーベル賞とも言われる日本国際賞の2012年の受賞者が1月25日に発表された。今年度は、「環境、エネルギー、社会基盤分野」で佐川眞人博士、「健康、医療技術分野」で米国の1組(3名)が受賞した。 私は、「環境、エネルギー、社会基盤分野」の審査に参加し、他の委員の助けを借りながら佐川眞人博士の受賞理由書を作成したのでその要約を記載させて頂き、お祝いとしたい。

受賞者:佐川眞人博士
授賞業績:世界最高性能Nd-Fe-B系永久磁石の開発と省エネルギーへの貢献

佐川眞人博士は、それまでの研究とは全く異なる視点から永久磁石材料の研究に取り組み、1982年、従来のサマリウム-コバルト系磁石の約2倍ものエネルギー積が得られるネオジム-鉄-ほう素(Nd-Fe-B)系磁石の組成を発見した。しかし、温度が上がると急速に保磁力が低下すること、極めてもろいこと、使用中に酸化され性能が損なわれることなど、実用化には各種の克服すべき問題があった。そこで、佐川博士は高温でも保持力を保つための添加元素の探索と添加量の最適化、高い機械強度を持つ焼結磁石とするための製造技術の開発、酸化を防ぐための表面加工技術の開発などの努力を重ね、広く使用できる工業材料として完成させた。

佐川博士が開発したNd-Fe-B系磁石を用いたモーターは、従来のモーターに比べ小型軽量で高い効率(最大約30%)を得られることから、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、エレベーター、運搬機、工作機械、建設用重機などに広く用いられ、省エネルギーに大きく貢献している。世界の電力需要の中でモーターの占める割合は高く(我が国では57%)、従来型モーターからNd-Fe-B系磁石を用いた高効率モーターへの置き換えは、相当の電力節約につながる。さらに、再生可能エネルギー技術である風力発電の発電機にも広く使用されているほか、ハイブリッド自動車や電気自動車のモーターのすべてに使用されるなど、省エネルギーへの貢献はますます増大しつつある。博士は今も現役の研究者として活躍中であり、磁石の添加物として使用しているレアアース(ジスプロシウム)の使用量を大幅に削減するなどの成果を出しつつある。

日本学術会議報告「エネルギー科学・技術についてのアジア諸国との連携強化」

日本学術会議で私が委員長を務めている「エネルギーと科学技術に関する分科会」で報告「エネルギー科学・技術についてのアジア諸国との連携強化」をまとめた(2010年8月2日発行)。その抜粋を示す(本文は日本学術会議のホームページに掲載)。

アジア諸国のエネルギー消費量が急増し、世界的なエネルギー資源の逼迫や、環境問題に大きな影響を与えている。また、アジア諸国は、エネルギー産業についての大きな市場であると共に、科学・技術及び産業を推進する能力を高め連携のパートナーとして重要な位置を占めつつある。石炭、バイオマス、太陽光発電の適地などのリソースの豊富な国も多い。火力発電の排気による汚染や今般日本で発生したような原子力事故は隣国に被害を及ぼしたり不安を与えたりする。これらの問題に対処するには、アジア諸国との連携が有効であり、不可欠であると言えよう。

そこで、分科会では、エネルギー科学・技術の主要な分野の状況を分析し、以下のような提案をまとめた。

(1)アジア諸国との連携は、エネルギー資源や環境問題の解決、安全・安心の確保とともに、相手国の開発支援、我が国の科学・技術及び産業の発展なども視点に入れながら、長期にわたってWin-winかつ相互信頼の関係を構築できるように、産・学・官が協力し、戦略的かつ良心的に推進すべきである。

(2)実用化あるいはそれに近い段階にある技術、機器、システムはアジア諸国の企業と競争・競合しているものも多く、技術流出などにより国益に反することがないよう留意する必要がある。技術移転・普及が速やかかつWin-winの状態で行えるような仕組みの構築も重要な研究対象になる。また、原子力システムや核融合などの技術は、軍事技術、機微技術に関連するものもあるので注意を要する。安全や核不拡散に関する考え方やそれを維持する仕組みを共有するようにすることも重要である。

(3)バイオマス資源、太陽光発電の適地、石炭などはアジア諸国に大きなリソースがあり、技術・産業の市場としても巨大である。また、膨大な社会インフラの整備や産業部門、民生部門の投資も開始・急拡大されつつある国が多い。そこで求められる技術は、我が国や欧米で開発、普及されてきたものとは異質であることが多い。我が国が有するエネルギー科学・技術をベースに、それぞれの国、地域の状況に適した技術を開発することにより、海外展開で出遅れ感のある日本が優位に立てる可能性がある。これらの研究開発での協働は、市場の開拓、相互のリソースの有効活用、科学・技術の発展、共通技術基盤の構築と標準化、日本をよく知った相手国人材の育成および国際的に活躍できる日本人人材の育成につながり、永続的な共存共栄に資する。

(4)大学は人材育成における主要な機関であるとともに、依然として多くの有能かつ多彩な人材を擁し、新しい発想に基づくブレークスルー技術の研究開発、リスクのある研究開発、長期間を要する研究開発において重要な役割を持つ。さらに、研究開発の国際化、特にアジア諸国との連携という点から見ると、多くの留学生、留学経験者や研究仲間などを通じ強力な人的ネットワークあるいはそのポテンシャルを有する。即ち、エネルギー分野の研究開発におけるアカデミアの活躍が要求され期待できる時機にあると言えよう。天然資源に恵まれない我が国は、二次、三次産業とそれを支える技術、人材でつねに世界をリードする立場であらねばならない。それに応えるためには、海外での共同研究開発とともに、国内にその中心となる研究拠点、共同研究拠点、大型研究施設を形成・設置し、情報と、優れた人材、研究開発資金を集結することが重要である。産・学・官は連携し早急に体制を整えるべきである。

日本学術会議シンポジウム「25%CO2削減に向けたものづくり戦略」

10年3月、日本学術会議シンポジウム「25%CO2削減に向けたものづくり戦略」において「省エネ・低炭素ものづくり技術と学術の貢献」と題する基調講演を行い、パネル討論に参加した。

環境・エネルギーに関する最大の問題は、化石資源の大量使用による需給逼迫と、その結果としての二酸化炭素排出量の増大、気候変動であろう。日本政府は、条件付きとしながらも、2020年までに我が国のCO2排出量を25%削減することを目標として掲げた。これを実現するための最も有効な方策は、化石資源使用量の削減であり、生産、消費生活における量から質への転換及び社会・経済活動を支える科学技術の革新とその普及が不可欠である。化石資源使用量の削減に直結する技術としては、(1)エネルギー源の化石資源以外への転換、(2)エネルギー・資源利用効率の向上 の二つが重要である。大気中の二酸化炭素の削減技術としては、この他に、(3)排出される二酸化炭素の分離・隔離や生態系による炭素の固定などがある。

高い目標を掲げ、世界に先駆けて努力することは、長期的に見れば、技術、産業で優位に立つことにつながる。ただし、将来の社会ビジョンだけではなく、そこに至るシナリオ、それを実現するための課題の抽出、および課題解決のロードマップを併せて設定し、戦略的に取り組む必要がある。実現の具体策のないビジョンは、単なる願望でありビジョンとは言えない。また、産、学、官の政策立案者や研究者はもとより国民全体が正しい情報を共有し、議論し、合意することによって初めて有効なものとなる。

インドにおける低炭素技術の普及

09年9月インド・デリーの喧噪の写真
09年9月インド・デリーの喧噪

09年度、「地球規模課題対応国際科学技術協力事業」で採択したプロジェクトのひとつに、「インドにおける低炭素技術の移転促進に関する研究」(研究代表者 地球環境戦略研究機関 関西研究センター 鈴木所長)がある。09年9月、研究代表者やJICA関係者らとニューデリーを訪問し、研究者及び政府関係者と共同研究について意見交換し枠組みを相談すると共に、技術の普及対象となる町やビルの状況を視察した。

日本は、環境・エネルギー技術のレベルが高く、その技術を開発途上国に移転することにより、世界全体の温室効果ガス排出量の削減に大きく貢献できると言われているが、日本企業の工場設置や技術提携などのほかは具体策がほとんどなく、なかなか進展しないのが現状である。

本プロジェクトは、世界的にも有名なTERI(The Energy and Resources Institute。理事長は、ノーベル平和賞を受賞したIPPCの議長でもあるR.K.Pachauri氏)との共同研究により、インドでの普及に適した日本の低炭素技術、省エネ技術とそれらの要改善点を抽出し、移転・普及の仕組みを合わせて提案することを目的としている。これらは、国際的な温室効果ガスの削減の取り組みにインドが自信を持って参画できるようにすることと、インドに省エネを普及させるために極めて重要である。また、日本にとっては、CDMなどの活用による国際貢献と同時に、日本の技術、産業の国際展開のために有用と考えている。

今回訪問したのは、デリー地区だけであり、広大かつ多様といわれるインドの全容をつかめたとはとても思えないが、その混沌とした様は印象的であった。スマートに活動する研究者、官僚、政治家、ビジネスマンなどが数多くいる一方で、街中の道路の脇にじっと横たわっている人をたびたび見かける。真新しい高級車が走る一方で、弱った子供を抱えた女性が交差点で止まった車の窓ガラスをたたいて物乞いをするなど、通りすがりの者もかなりつらい思いをさせられる。この国も世界の中で大きな存在感を持ち、さらに発展していくことは間違いないであろうが、将来どのような社会になるか簡単には想像できない。

子を抱え物乞いをする女ありに苦行なりデリーを往くは

アマゾン熱帯林による炭素の固定

アマゾン熱帯林の写真
アマゾン熱帯林

09年度、「地球規模課題対応国際科学技術協力事業」で採択したプロジェクトのひとつに、「アマゾンの森林における炭素動態の広域評価」(研究代表者 森林総合研究所 石塚研究コーディネータ)がある。このプロジェクトは、地上での観測データと衛星による観測データを使って、アマゾンの森林に補足されている炭素量と、開発行為によるそこからの炭素の放出量とを正確に予測し、森林保全の価値を明確にし、開発による損失の極小化をはかるという壮大な計画をもっている。

09年1月、研究代表者やJICA関係者らとマナウス、サンパウロ、ブラジリアなどを訪問し、アマゾン研究所、宇宙研究所などの研究者及び政府関係者と共同研究の内容、工程およびその推進方法について決めると共に、観測対象となる森林を視察した。乾季だったため、森林内は想像していたような蒸し暑さはなく、さわやかと言える感じであったが、熱帯雨林特有の植物の多様性とその密度の高さは実感できた。

青い金属の光沢の羽で飛び回る蝶、地中の穴に巣を作っている蜂の群れ、湿地でいきなり現れるコブラなどを見ることが出来たのも面白い体験であった。コンドルが、町中にも数多く棲みつき、屋根に止まったり、ゴミをあさっていたりする様もアマゾン地域ならではかもしれない。

ブラジルは、BRICSと称されるように急速に開発が進んでいる国のひとつであるが、今回の訪問でも、国全体に活力が漲っていることを感じた。政策上のつまずきなどがなければ、間違いなく大きく発展すると思われる。また、ブラジルには日系人が多く、日本とのつきあいもいろいろあり、研究者、政府関係者にも親日家が少なくない。地理的には遠いが、我が国がとくに大切にしなければならない国のひとつであることを改めて感じた次第である。

アマゾンの樹海をさまよう青き蝶 三たび四たびと現れて消ゆ

銀杏会トップフォーラム

東京大学には銀杏会という大きな同窓会組織がある。この会は都道府県別に組織されている。その東京銀杏会の代表幹事をされている岡崎一夫氏(ワンダーフォーゲル部の先輩)に依頼され、09年3月、関東地区の銀杏会の共催で開催された第14回トップフォーラム「近未来を見据えた我が国のエネルギー/資源問題について」において、「科学技術の発展方向と日本の対応」と題して講演し、パネル討論に参加した。

我が国の大きな政治課題にもなっている二酸化炭素の排出量の削減は、科学技術なしでは解決できないし、科学技術だけでも解決できない。豊かな生活と両立するよう、政府関係者、研究者/技術者、企業関係者、市民が正確な知識を持ち、協力し有効な行動をとるよう願っている。

なお、トップフォーラムの記録は、東京銀杏会会誌「銀杏」(2009年第10号)に掲載されている。

ナイル流域の農業

灌漑の古い揚水装置(ナイル・デルタ)の写真
灌漑の古い揚水装置(ナイル・デルタ)

08年度、「地球規模課題対応国際科学技術協力事業」で採択したプロジェクトのひとつに、「ナイル流域における食糧・燃料の持続的生産」(研究代表者 筑波大学 佐藤政良教授)がある。

世界的に食糧不足が大きな問題となっているが、十分な量と質の農業用水が不足していることが農作物増産の大きな障害となっている。このプロジェクトで研究対象とするエジプトのナイル・デルタは広大な平野と日射量に恵まれ、農作物生産について大きなポテンシャルを有するが降雨量が極端に少ない。そのため、灌漑用水はナイル川の水に頼っているが、アスワンハイダム建設後、上流からの栄養分の流入量の減少、灌漑水の蒸発による塩類の集積などの問題が顕在化してきた。さらにエジプト政府は、食糧増産のために50万ヘクタールに及ぶ新たな灌漑地の開発を計画しており問題がさらに深刻化する恐れがあり、灌漑システムの合理化を含めた総合的かつ革新的節水型農業の開発・確立が喫緊の課題となっている。本プロジェクトでは、カイロ大学などと協力し、(1)農地の塩類集積や水汚染の緩和、(2)塩類集積や水汚染に適応した作物・栽培方法の選択、(3)最適なエネルギー作物生産とそれを利用した農業の機械化、(4)これらに適した妥当性、公平性を有する灌漑システムの開発 などにより、食糧の土地生産性、水生産性を大幅に向上することを目指している。成功すればその成果は、他の類似の地域でも応用できる。食糧やエネルギー資源の需給緩和はエジプトはもとより世界全体、およびそれらの輸入国である日本にとっても大きな恩恵を及ぼすはずである。

09年1月、研究代表者やJICA関係者らと現地に出張し、政府、研究機関の関係者と研究計画をつめた。この時強い印象を受けたのは、子供の頃、水量が多く、雨期には洪水も珍しくないと教えられたナイル川流域も今は空気が乾燥し、砂塵が舞っており、近年は水の需要が増えたこともあって、農業用水の確保に苦労するという現実であった。その後、共同研究は、国政の不安などの障害を乗り越え、灌漑の合理化、防風林の設置、作付けの改善などによりこの地域の農業用水を最大20~30%節減できるとの大きな成果を得て、14年3月終了する運びになった。14年1月から2月にかけて研究者らと再度エジプトを訪問し、成果を見届けた。エジプトの治安は大分安定したとはいえ、訪問中にもカイロでデモ隊と治安部隊が衝突し、18名の死者が発生するという事件がった。

地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム

08年4月、4年近く準備をしてきた「地球規模課題対応国際科学技術協力事業」(現 地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)を 科学技術振興機構(JST)内に発足させることが出来た。この事業は、環境・エネルギー、防災、感染症などの、広く世界に影響を及ぼしかつ一国では解決できない課題、開発途上国にもニーズと研究能力があり協力できる課題、科学技術で成果が上がる課題の解決に向けて、我が国と開発途上国とが共同研究を行うというものである。共同研究の成果としては、(1)課題解決に資する科学技術の発展のほか、(2)開発途上国の課題解決への支援、(3)相手国の持続可能な発展(科学技術的知見、研究インフラ、人材、社会還元)への支援、(4)日本と相手国の科学技術ネットワーク(科学技術および人的)の構築、(5)国際的に活躍できる日本人人材の育成 などを期待している。4,5年前から、環境・エネルギーなどの課題はアジアその他の開発途上国と協力して取り組む必要があると考え、政府などに提案してきたこともあって、事業の発足に伴い、この事業担当の上席フェローとして、専門的事項を担当すると共に、この事業の中の環境・エネルギー分野の研究主幹を努めることになった。

この事業では、国内の研究者、研究機関を文科省・JSTが支援し、研究開発資金が乏しい開発途上国での研究を外務省・JICAがODAの技術協力の一環として支援するのが特徴である。研究プロジェクトは、国内の研究者が開発途上国の研究者と協議し計画をまとめ、国内の研究者からJSTに共同研究を提案し、海外の研究者からその国の政府機関を通して日本の外務省にODAの申請をし、両者がそろったものの中から審査により採択するという手順を踏む。

競争はかなり厳しく、初年度の08年度は、127件の応募があり、12件(環境・エネルギー7件、防災3件、感染症2件)が、09年度は、147件の応募があり、21件(環境・エネルギー12件、防災5件、感染症4件)がそれぞれ採択された。2015年度現在、相手国43カ国、総採択件数99件に上る。